『コッペリア』というのは著名な割りに全幕を見る機会の少ない演目ですので,演出について比較してどうこう言える知識はないのですが・・・なんとびっくり! ニネット・ド・ヴァロワ版とのことです。
70年近く同じ版を上演し続けているそうで,(開演前や幕間の)解説やインタビューから判断するに,装置や衣装も基本デザインは初演時と同じ様子。
なんとも貴重な話ですし,今見ても,特に「古くさい」感じがなく素直に楽しめるのは素晴らしいことですね。
英国の『コッペリア』といえばピーター・ライト版が思い浮かびますし,日本のカンパニーが輸入するくらい優れた版だと思いますが,その一方で,老舗がこのように伝統的な演出を保っているということに,感慨を覚えました。
ヌニュスは,解説のバッセルが「気が強く仕切り屋」と形容するスワニルダにぴったり。
だものですから,1幕の東欧風キャラクター・ダンスや麦の穂のパ・ド・ドゥを楽しみながら,こんなに積極性溢れるスワニルダが,なんでこんな甲斐性なさそうな男に愛想をつかさないでいるのかな〜? と不思議に思いました。
やっぱ,見た目ですかね? 確かに,これ以上にかっこいい男の子に,今後巡り合えるとは思えないでしょうからねえ。
と思えるくらい,ムンタギロフのフランツの外面は魅力的でありました。
プロポーションも顔も申し分ありませんし,踊りは見事だし,「鄙にも稀なエレガント」な立ち居振る舞いでもありますし。
コッペリアに投げキスしたり,ほかの女の子と仲良くしたりしている様子も,なんともチャーミング。
2幕前半のドタバタは,とても楽しかったです。
特に,人形たちが動き始めたときの,スワニルダと友人たちのあたふたぶりには大笑い。
若手のソリストも芝居心がある方たちばかりのようで,さすがは英ロイヤルですね♪
なのですが・・・後半になるにつれて,素直には笑えない心境になってきました。
コッペリウスは何も悪いことしてないのに・・・いや,フランツを眠らせて魂を抜こうとはしていたけれど・・・コッペリアが人間になったと思い込んだのを,あんな風に嘲笑されるなんて,気の毒すぎますよねえ。
楽しいよりも,不愉快感のほうが強くなりますわ。
そういえば,1幕の最後に,若い男たちが,(この場面こそ)何も悪いことをしていないコッペリウスをからかう場面もありましたし,この村は若い者はロクでもない奴ばかりですなー。
こういう印象を強めたのは,エイヴスのコッペリウスに可愛げがあったからかも。
狷介でかなり年取った容姿に拵えているのですが,それだけに一層,フランツの目を盗んで眠り薬入りワインを捨てる様子や,魔法の本を参照しながらせっせとコッペリアに命を吹き込もうと作業する様子が微笑ましくて・・・。
そして,だからこそ,2幕の幕切れの悲嘆に同情が強まるわけで・・・。
スワニルダの楽し気な様子は,ほんと不愉快だったなー。
・・・と思ったら,コッペリウスは3幕冒頭で大金を得て納得し,スワニルダに「おかげで儲かったよ」と挨拶を送ったりしていたので,不快感はほぼ消えました。
最後にお金を貰って丸くおさまるのだとばかり思っていたので,少々意表を突かれましたが・・・
このように,早速遺恨を解消するのが一般的なんでしたっけ? それとも,ド・ヴァロワ版の特長なのでしょうか?
さらに,主役のグラン・パ・ド・ドゥ(フランツのヴァリアシオン)のときにコッペリウス家の2階の窓が映ったら,コッペリウスが嬉しそうに下の様子を見ていて・・・2人の結婚を喜んでいるのね〜,よかったわ〜,ハッピーエンドだわ〜,と思えました。
よかった。よかった。
3幕について
ワルツは,プロポーションの美しいダンサーを8人揃えて・・・えーと,技術的なことはよくわかりませんが,スタイル(踊り方)が揃っていない?
「私はロシア・バレエ」みたいな方が少数派ながら存在感が強くて・・・結果として,美観を損ねていたと思います。
フォーメーションの変化が美しくすてきな振付だっただけに,残念でした。
この幕は夜空で始まりましたが,オーロラ(曙)の踊りで明るくなるのかなー,と思ったら,そういうことはなく,夜の情景のまま。
続いて,「祈り」
ブヴォルは,手の動きが繊細で美しく,うっとりしました。
「仕事」も女性の踊りで,鎌を持つ4人+紡ぎ針を持つ4人。
そろそろ男性の出番かと予想していたのですが・・・スワニルダの大活躍に比べてフランツの踊りが少ないことなどと共通する,70年前の作品らしさの現れなのかなー,などと思ったり。
グラン・パ・ド・ドゥは,それはもう見事でありました。
特に,ムンタギロフのマネージュは好みです。うまく説明できませんが,直線的というのかしらん? 前に上げた脚がふわっとじゃなく,まっすぐ宙に突き刺さる感じ。
解説&インタビューについて
ヌニュスのロイヤルでのデビューはスワニルダの友人役立ったそうで,写真が映りましたが,スワニルダは吉田さんでした!
(なので,最後のクレジットにも吉田さんの名前があったよに思います。)
スワニルダの初役の時には,退団していたマイク・キャシディが彼女のパートナーを務めてくれたそうですが・・・それって有名な方ですか?
もしかして,スチュアート・キャシディ・・・??? ステュアートの愛称がマイク・・・ということがあるだろうか???
バッセルがド・ヴァロワの振付について「フロアパターンを重視する」と言っていましたが,どういう意味なんでしょう?
振付: ニネット・ド・ヴァロア
音楽: レオ・ドリープ 指揮: バリー・ワーズワース
ワニルダ: マリアネラ・ヌニェス
フランツ: ワディム・ムンタギロフ
コッペリウス博士: ギャリー・エイヴィス
市長: クリストファー・サウンダース
宿屋の主人: エリコ・モンテス
ペザントの女性:マヤラ・マグリ
スワニルダの友人:
ミカ・ブラッドベリ イザベラ・ガスパリーニ ハンナ・グレンネル ミーガン・グレース・ヒンキス ロマニー・パイダク レティシア・ストック
公爵: ルーカス・ビヨルンボー・ブレンツロド
オーロラ(曙): クレア・カルヴァート
祈り: アネット・ブヴォル